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IWAのブログです。主にエッセイ

R大学カンニング事件

1浪して挑んだ2度目の受験の話。
その年は第二次ベビーブームの影響で受験生の数はピーク。
大学に入ること自体が難しいと言われる状況だった。
日東専駒が「難関大学」と呼ばれたバブリーにも程がある時代である。

当然、僕のようなバカを受け入れてくれるとこはどこもない。
え、なぜバカかって?その理由は

卒業式の翌日、追試で学校に呼び出された

しかも2度。2度目は仙台から受験先の東京に「追試受けろ」と脅迫電話がかかって来た。(追試とは「電話口で先生が問題を出し10問正解したら卒業」というバカ専用のものです)
2時間半後、見事卒業。\(^o^)/
札付きのワルとはよく言うが、まさに札付きのバカである。

しかし、桁外れにバカな人間は、全て「ヤケ」と「カン」で行動するため、時に常人では考えられない奇跡を起こしたりもする。
例えば、ウド鈴木が円周率を700桁覚えてしまったように。
そして、その時「自分はそのタイプだ」と何の根拠もなく信じていた。

こうして偏差値41のバカ男は、名門R大学を出願する。
周りは「無理」「受験料のムダ」と止めたが、
「これは受験でなく、無理を可能に変えるプロジェクトなんだ」が当時の自分の口癖だった。
そして試験当日、早速一つ目のミラクルが起きた。

席がギッチギチ

会場の席と席の間が、休日の映画館のようなスシ詰め状態。全く間隔がない。
普通は1席開けるのが常識なのだが、その年は受験生が多く席が足りなかったらしい。
座ると、隣の奴とはもう肩がぶつからんばかりの状態。
そして育ちの悪い人間特有の発想がすぐに脳裏に浮かんだ。


これカンニングできんじゃん



しかも隣は銀ブチメガネの秀才っぽい奴。超頭良さそう。
「こんなとこスベリ止めにすぎねーんだよ、アホな奴らと一緒にすんな!」オーラも出しまくりである。
つまり、こいつの答案を写せば・・・

4月からR大生
合コンだらけの4年間→就職戦線一歩リード=人生の勝ち組

一生カンニングの疚(やま)しさは残るかもしれないが、そんなことは知ったこっちゃない。
いい大学を出れば評価されるという矛盾だらけで間違った社会を作った日本が悪いのだ。
ここまで好条件がそろえば乗らない手はない。
宇宙が僕に味方している。

1時間目英語
外国(スラム)育ちということもあり唯一の得意科目。これだけは自力でやる。
銀ブチが着ている「DIARRHEA(下痢)」トレーナーの恥ずかしさに気づいてない時点で、英語力は僕より下とみた。
おまえは国語と世界史担当でいい。この後頼むぞ。

2時間目国語。
さあ、こっからだ。
横目で銀ブチの答案を見る。

丸見え

しかもマークシート
ラスト5分もあれば難なく全ての解答を写すことができる。

2,3,1,4,2,3・・・・

今考えると、人間の運命がこの50数個の数字に左右されてると思うとバカバカしすぎて笑えてくる。
しかし、この時はこの数字がフィボナッチ数列のごとく高貴なものに見えた。

3時間目世界史
魔女裁判とギロチン処刑の歴史以外何も知らない。

全写し

ありがとよ!銀ブチ、終わったらジュースおごってやるからな。
いや、そんなことしたら「なんで?」って怪しまれるからやめとこう。
そして頭ではなく目が疲れる、というありえない体調で試験を終え、席を立った。

すでに頭の中は4月からのバラ色の学生生活のことでいっぱい。
ナンパ、激飲、スーパーフリー・・・。その時、僕の顔はたぶん半笑いだったろう。
すると、向こうから試験を終えた革ジャンの男が銀ブチのもとに歩み寄ってきた。

革ジャン「よーう」
銀ブチ(手をふって答える)

どうも知り合いらしい。
ずいぶんとガラの悪い友達がいるんだな、と思って見てると
革ジャンが銀ブチの肩をたたいて言った。

「おい、試験できたのか?バカけん」

バ、バカけん・・・・?

「できたのか聞いてるんだよ、バカけん!」

するとバカけん

バカけん「できるわけねえーーーだろ!」

しゃべるとアメリカザリガニのニワトリっぽい方みたいな声だった。頭痛え。

革ジャン「そうだよな!できるわけねえよな」

バカけん「今日は記念受験っスよ!」


記念・・・・・・




革ジャン「第一志望の(Fラン大)あさってだっけ?」


Fラン・・・・・




バカけん「そうっス、だから今日はもう適当っス」


テキトー・・・・




バカけん「あさっての大一番は当たって砕けろっスよ!」


しょっぼいタックル・・・・




革ジャン「バカけんにはその方が似合ってるよ!」


・・・・・・・・




僕はこの時、笑い転げる神の声をたしかに聞いた。

結局、そのショックを引きずり、その年は受験した10校を全て落ちた。
そして翌年、実力通りの無名教育系大学に入学。
これで良かったのだ。

ありがとう、バカけん。キミがあのときバカだったことは忘れない。