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IWAのブログです。主にエッセイ

タイガーマスクに群がるチビッコ達

十代の頃、プロレスが大好きだった。
当時は馬場の全日本プロレス、猪木の新日本プロレスの全盛期で
地上波のゴールデンタイムでも普通に放送されていた。

友達からも「生で見るプロレスの迫力はすごい」と何度も聞かされ、
いつか自分も会場でプロレス観戦することを夢見ていた。
が、この宮城のド田舎にそうそう来てくれるはずもない。

なにしろ牛が普通にいるようなとこだから。(「牛に邪魔されたから」参照)



そんな時、奇跡が起きた。
全日本プロレスが学校隣の体育館に来ることになったのだ。
僕はプロレスファンの友達と抱き合って喜び、すぐさまチケットを買いに向かった。
普通はチケットぴあとかで入手するのだろうけど、何度も言うがここは宮城のド田舎である。
そのプレミアムチケットは田んぼ沿いの小さな雑貨店で入手することとなった。


手に入れたチケットを見ると馬場と天龍の写真が載っている。
僕は学校でそのチケットを自慢しては不良に奪われ、宝の地図を渡されては発見するというイジメを3度繰り返し、
それでも楽しみの方が勝ったので、その日まで2ヶ月笑顔で過ごすことができた。

そして待ちに待った試合当日。
僕は友達と全速力で自転車を飛ばし、体育館の前で選手の出待ちをした。
都会の大きな会場なら、選手がファンを避けて裏門から入るのが当然なのだけど、
こんな田舎だから、選手は正門から堂々と入ってくるだろうという読みがあった。
と言うか、たぶんこのボロ体育館に裏門はない。

待つこと30分、予想通り最初の選手が現れた。

スタン・ハンセンだった



プロレスを知らない人でも
ウェスタラリアット」の人
と言えば、わかるのではないかと思う。

いきなりの超大物の登場に度肝を抜かれる。
試合では怖いハンセンだが、普段は紳士だということを
プロレススーパースター列伝」の愛読者である僕はよく知っていた。
しかも、あんなコワモテで元地理の先生。安心して握手を求めたら

無視された

ラリアットされなかっただけマシだよ・・・
友達になだめられ、次の選手を待った。
10分後、思ってもない選手が現れた。

タイガーマスク



当時、僕はタイガーマスクの大ファンで、部屋にもバカデカいポスターを貼っていた。
感動のあまり、握手を求めることすら忘れ、ただタイガーの勇姿に見入っていた。

憧れのタイガーが目の前に・・・

その後も次々有名選手が入ってきて、僕と友達は興奮を隠しきれないでいた。
東京からこんなド田舎に越してきて、初めて良かったと心底思った。
会場に入ってからも選手は田舎なのをいいことに(人が少ないことを最大限に利用し)
そこら中をウロウロ歩いたり、トレーニングしたりしていた。
突然、後ろで歓声があがった。
振り向くと

ジャイアント馬場が一般人用のトイレから出てきた。

どうも選手はここを戦いの場と思ってないらしい。
近くに有名な温泉地があるから、この会場で旅館代稼ぎに来ただけなのかもしれない。

試合が始まると、田舎の会場とは思えないほど白熱ぶり。
客の入りを見ると市の半分の人は来てるのでは、と思うくらいの盛り上がりだった。
僕も初めての生の試合に陶酔しきっていた。

と、試合が後半にさしかかったところで、突然こんなアナウンスがあった。

「これから選手によるチャリティーコーナーを始めます」

選手がリング上で募金箱を首から下げ、ファンがリングサイドまで行ってお金を入れにいくのだ。
ふと見ると、タイガーマスクも首から募金箱を下げて立っている。

カッコ悪いーな、断れよ!

と思いつつも、今度こそタイガーに触れるチャンス。
僕は100円玉を握り締め、一目散にタイガーマスクの元に駆け寄った。

さすがに人気者タイガーにはファンがたくさん集まる。
人ごみを掻きわけようやくタイガーの目の前に到着。
僕はタイガーの手をガッチリと掴み、募金箱に100円を入れることに成功した。

ああ、今日のことを僕は一生忘れないだろう。
この日は今まで生きてきた16年間の中で一番幸せな日となった。

そんな余韻に浸りながら、翌月いつものように学校帰りのコンビニで「週刊ゴング」を立ち読みしていた。
すると、そのチャリティーの様子が写真入で紹介されていた。
見ると写真はタイガーだ。

「すげえ、あの時のじゃん」

そして、写真の下には太字で

タイガーマスクに群がるチビッコ達」

と書かれていた。
たしかにタイガーマスクにはチビッコしか群がってない。
大人は馬場とか天龍の方に集まってるからだ。
更に写真をじっくり見ると、子供に混じってアホ面で手を伸ばしてる一人だけ背の高い高校生が混じっていた。

僕だった

田舎の噂は広まるのが異常に早い。
次の日から僕の学校でのアダ名は「チビッコ」になった。

ある日、それを不信に思った担任が僕に聞いてきた。

「お前は身長高いのに何でチビッコって呼ばれてるんだ?」



聞くんじゃねえよ